ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)が、エネルギー政策や農業政策、環境政策など、さまざまな観点から注目されるようになって久しく、農林水産省の統計からも、着実に国内での導入量が増加してきています。その一方で、長らく“積み残された課題”となっていたのが、発電設備の設計・施工に関して、参考となる公的なガイドラインなどがないことでした。
これは、「従来通りの農業生産の継続を前提とした太陽光発電」という特徴を持つソーラーシェアリングの設備について、農業設備の観点から考えるべきか、発電設備の側から考えるべきか――という問題も関わっています。
そんな中で、2021年11月12日にNEDOから「営農型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン2021年版」が公表されました。
営農型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン2021年版
今回の「営農型太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン2021年版」は、NEDOの「安全性・信頼性確保技術開発事業」の一環として実施されたものです。テーマとしては「傾斜地設置型、営農型、水上設置型発電設備環境に関する安全設計・施工のためのガイドライン策定」となっており、ソーラーシェアリング単独ではなく、傾斜地や水上設置など、特殊な設置環境の太陽光発電を取りまとめて策定されています。
そして冒頭の視点からすると、NEDOの事業であるということからも分かる通り、発電設備としての観点から安全性や信頼性の確保を図っていくために策定されたガイドラインということになります。とはいえ、営農型である以上は設計段階から農業への配慮は必須ですし、農業機械などによる設備破損などの事故も防止する必要がありますから、農業面での設計検討や施工への配慮も最大限含んでいます。一方で、営農型の設備であればあらゆるものに適応されるというわけではなく、ガイドラインの冒頭に、下記の通り対象となる設備についての記述があります。
ガイドラインの適用範囲
今回のガイドラインの対象は、営農型太陽光発電設備として一時転用許可を受けて設置するものに限り、設計としては高さが9mを超えるもの、追尾型システムや畜舎・農業用ハウスなど園芸施設に設置されるシステムについては対象外としています。では、その中身についてもう少し詳しく見ていきましょう。
太陽光発電設備としての構造や電気的に考慮すべき基本的な事項はここでは割愛し、特に営農型であることで考慮すべきとしたポイントを紹介します。
まずは地上設置型の太陽光発電設備との大きな違いとして、営農型は設備下で農業従事者が作業を行うということがあり、その際の電気的な保安をどのように図るかは、最も重要なポイントです。これについては、「1.6電気的設計方針」で言及しており、農業従事者は設計者、施工者、保守点検事業者から感電リスクについて説明・教育・講習を受けているものとして取り扱うこととしています。
従って、ソーラーシェアリング事業を行う際は農業従事者に対して十分な電気保安教育を実施することが求められます。設備的な観点では、農作業による電気配線の損傷事故を防ぐため、金属配管などによる保護や警戒表示、埋設管は場所の周知と共に十分な深さを取ることなどを求めています。
次に、事業計画の際の留意点がいくつか挙げられますが、計画地が水田の場合は地盤調査の際に湛水状態での調査を行うこと、対象農地における農作物の生産計画や作付け期間を確認すること、農業機械の寸法や旋回半径などを確認することなどを事前調査の際に行うこととしています。
発電設備の配置計画を立てる際にも、農業機械の進入路や走行ルートの考慮、農作業に支障がない空間の確保、隣接農地や用水路・道路の利用に支障がないこと、アレイによる雨だれの考慮などを求めています。また、架台に対して農業機械の衝突が起き得ることを想定し、衝突の際に損傷範囲を限定し連鎖的な架台の倒壊を防止するため、構造上の冗長性を持たせることも求めています。基礎については杭基礎を基本として、直接基礎とする場合には独立基礎として専有面積を最小化すること、作土層の保護のため原則として地盤改良工法は行わないこととしています。
施工管理の際のポイントとしては、重機などを用いる場合の作土層や畦畔・水口の保護、農閑期を考慮した作業スケジュールの計画の他、比較的軟弱な地盤上における高所作業を行うことへの注意を求めています。メンテナンスについても、同様に農閑期の考慮や高所作業であることへの注意のほか、保守点検計画に際して農業従事者との事前協議の実施を求めています。